七夕に登場する『彦星』のモデルとなっている者が存在し、
それは古事記に登場する高天原を裏切った神『天若日子』
と言われています。室町時代の『御伽草子』(短編のお話が
いくつも詰め込まれたもの)。
その中には『天稚彦草子』という七夕の物語があり、
この物語の『天稚彦』と呼ばれる人物が彼なのだとか。
今日は七夕。彦星と織姫が年に一度逢える日という事で、
『天稚彦草子』の物語をお話致しましょう。
原文では難しいので、以下、文章が多少前後しますが
大体のストーリーをざっと現代語で…
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天稚彦草子
http://www.j-texts.com/chusei/ame.html
むかしむかしのお話です。
とある村の長者の家に、若くて美しい三人の娘がおりました。
ある日のこと、長者の家の前の川で下女が洗濯物をしていると
恐ろしい大蛇が目の前に姿を現わし、口から手紙を吐き出して
こう言ったのです。
「言う事を聞かねば絞め殺す。この手紙を長者に渡せ」
下女は大蛇に言われた通り長者にその手紙を手渡します。
恐る恐るそれを開いてみると…
「お前たちの娘を嫁に寄越せ。
嫁にくれなければ殺してしまうぞ!」
これに驚いた両親が長女に問うと、
「例え父様と母様が殺されようと蛇の嫁になるのは絶対嫌!」
と拒否。次女に聞いても「私もイヤです」とこれを拒否。
残った末娘に泣く泣く問うと、「父様と母様が殺されて
しまうのならば、私が蛇の嫁になります」と了承。
指定された池の前に家を建て、末娘が震えながら待っていると
轟音と共に大蛇がその姿をあらわしたのです。
「私の姿を見ても恐ろしいと思わないでくれ。
刀を持っているのならば、どうか私の頭を斬って欲しい」
…言われるままに娘は蛇の頭を斬ります。
すると何という事でしょう!中から出てきたのは美しい男
ではないですか。娘は怖かったことなどすっかり忘れて
「天稚彦」と名乗るその男と相思相愛の仲になり結婚をし、
何の不自由も無い幸せな暮らしを送る事となります。
それから暫く経った日の事…妻は夫からこう告げられます。
「実は私は天からやってきた海龍王。
少しばかり用事があり天へ戻らねばならなくなった。
7日で帰る予定だが来なければ27日、それでも来なければ
37日を待ってくれ。それでも帰らなければ一夜ひさごに乗り
天に昇って私を訪ねてくれ。それからもうひとつ…
これを開けてはならない。開けたら私は本当に帰れなくなる」
自分の正体を明かした天稚彦は妻に唐櫃を預けて、
天に昇っていくのでした。
妻は夫に言われた約束を頑なに守っていたのですが、
「あの時怖がって損したわ」など言いながら妹の幸せを妬んだ
姉たちが突然やってきて家の中を勝手に物色。
「この箱を開けてはならぬ」の禁忌が破られてしまいます。
(妹から無理やり鍵を奪って唐櫃を開けてしまう)
唐櫃の中には何も無く、ただ煙が空に立ち昇るだけでした。
そんな事があってから、27日、37日…
いくら待っても夫は帰りません。心配になった妻は夫を探しに、
言われた通り一夜ひさごに乗り天に昇ります。
星々に夫の行方を聞きながらようやく再会することが出来た
のですが、やっと見つけたと思った夫の口から衝撃的な一言が。
「私の父は恐ろしい鬼なのです。
見つかればあなたは殺されてしまうだろう」
天稚彦は父がやって来ても、妻を扇や枕などあらゆるものに
変化させて何とか人間がやってきた事がバレないように
誤魔化しながら隠すのですが、ついには「何か人間臭いぞ…」
と鼻のいい父に発見されてしまいます。
「人間と結婚だと?!そんな事は絶対に許さん!」
と激怒する父。天稚彦は妻を必死に庇います。
「人間よ、俺の出す問題をクリアしたら
息子との結婚を許そう」
・千頭の牛を面倒見ろ。
昼は野に放ち、夜は牛舎に入れておけ。
・蔵にある千石の米を即刻別の蔵に移せ。
一粒足りなければ探し出せ。
無理難題を妻は天稚彦の父からふっかけられるのですが、
夫の助けによりこれらの難題を次々にクリアしてゆきます。
百足の蔵に閉じ込めても蛇の蔵に七日閉じ込めても無事に
還ってくる。これには鬼である父も流石に感心。
二人の結婚を認めざるをえません。
「こうなっては仕方が無いな、
月に一度なら逢うことを許してやろう」
鬼のこの言葉を聞き違え…
「お義父様が一年に一度と仰るならばわかりました」
と了承してしまいます。鬼は「ああ、ならば一年に一度だ」
と持っていた瓜を地面に叩きつけ、二人の間を隔てる川を
作りました。この川が天の川となり二人は年に一度の7月7日
のみに逢えるようになったのです。
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これは日本にいくつもある七夕の物語の内のひとつです。
中には『天女の羽衣』に似た話も七夕の物語として
残されています。知らなかったという人も、
こんな昔々の物語に一度目を向けてみては如何でしょう。
意外な発見があるかも知れませんよ。
【余談です】
鬼が天稚彦の嫁に苦難を押し付ける場面は、
古事記のスサノオと葦原色許男神(後の大国主)の
エピソードに似ているなぁと思いました。
あちらは嫁に助けられていますけれど、
苦難の内容と助かる方法が両方共そのまんまな感じ。
この共通点は非常に興味があります。(記事:©SERUNA)
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